【遺産分割協議】生命保険契約が遺産分割の対象となるか争われた事案で、早期に柔軟な解決を目指し、ご依頼から3カ月程度で解決した事案
相談前
子どものいない御兄弟が亡くなり、相続人は、ご両親がすでに亡くなっていたため、他の兄弟4名であったという事案でした。
ご相談者様は、被相続人から生命保険契約の受取人指定されていたようであり、他の相続人から当該生命保険金を受領しているのであるから、遺産を放棄するよう迫られていました。
そのような意見はあまりに一方的と感じたであるものの、あまり強く言えない性格であるので、代理人の弁護士から伝えてほしい、とのことでした。
相談後
ご依頼をいただき、まずは、生命保険契約に基づく保険金が遺産に含まれず、遺産分割の対象とならないことを説明したうえ、遺産分割協議を行いました。
最終的に、生命保険契約については遺産分割の対象とせず、法定相続分にて分割することを前提に、親族関係を完全には壊したくないというご依頼者様のご意向を踏まえ、若干他の相続人の取得分を多く割り付けて説得し、ご依頼から3か月ほどで解決することができました。
弁護士のコメント
生命保険契約の遺産該当性
生命保険契約において、特定の相続人を保険受取人としていされた場合、指定された者が固有の権利として保険金請求権を取得するため、遺産分割の対象にはなりません(最判昭和40年2月2日・民集19巻1号1頁)。
他方で、保険金受取人が被相続人である場合には、被相続人の固有の財産となり、遺産分割の対象となります。
そのため、生命保険契約が遺産に該当するかどうかは、保険契約の内容次第ということになりますので、まずは内容の確認が必要となります。
生命保険契約の特別受益該当性
前記⑴のとおり、受取人が指定されている場合には、遺産分割の対象とならず、当該保険金は受取人指定された者が保険契約に基づいて受領することになります。
そのため、他の相続人から、保険金を受け取ったうえで、相続財産も法定相続分通り取得するのが不公平であるとして、特別受益にあたる、と主張されるケースがあります。
特別受益とは、被相続人から遺贈を受けたり、生前贈与を受けた場合に、このような特別な受益を、相続分の前渡しであるとみなして、遺産分割の計算上考慮して相続分を算定する概念です(民法903条)。具体的には、特別受益にあたる贈与等があれば、遺産に持ち戻して相続財産+特別受益のみなし相続財産を計算し、各相続分を算定したうえ、特別受益を得た相続人からは、すでに遺産の配分を受けたものとして控除する、ということになります。
死亡保険金請求権や死亡保険金は、このような特別受益にも原則としてあたらないと考えられています。
しかし、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生じる不均衡が民法903条の趣旨に照らして到底是認することができないほどに著しいという特段の事情がある場合には、特別受益の民法903条が類推適用されるという最高裁判例(最判平成16年10月29日民集58巻7号1979頁)があります。
最高裁判例のいう「特段の事情」は、保険金額、遺産総額との比率、被相続人との同居・介護・貢献度合いなどの被相続人との関係や相続人の生活状況などが総合考慮されますので、生命保険金を特別受益に準じて考慮すべきかという論点が問題になった場合には、これらの事情を検討していくことになります。